東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態分野

カタクチイワシDarwinプロジェクト

科学研究費補助金 基盤研究(A)「魚類成長-回遊モデルを用いたカタクチイワシの生活史戦略の解明」(2018-2020年度)

プロジェクトの概要

漁獲対象種としても重要であり、且つ様々な魚類の餌料としても重要なカタクチイワシを対象に、東シナ海、大村湾、瀬戸内海、北西太平洋に生息するカタクチイワシの遊泳能力、呼吸代謝などにかかわる生物特性を飼育実験によって調べる。これら各海域のカタクチイワシの生物特性をもとに、様々な生物特性を持つカタクチイワシを成長-回遊モデルを用いて表現し、日本周辺域の低次栄養段階海洋生態系モデル内に配置した場合に、生物特性の差によって各海域における成長や回遊経路が変化するのかを調べ、日本周辺域のカタクチイワシの生活史戦略を考察する。世界各地に生息するカタクチイワシ属の生物特性を文献値に基づいて整理し、その情報をもとに様々な生物特性を持つカタクチイワシ属を成長-回遊モデルを用いて表現し、全球低次栄養段階海洋生態系モデル内に配置し、同様の数値実験を試みる。これらの数値実験を通じて、世界各地に生息するカタクチイワシ属の生活史戦略を回遊に伴うエネルギーバランスの側面から解明する。

なんでカタクチイワシ?

地球表面積の約7割を覆っている海洋が果たす生態系サービスの一つに食料供給がある。国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization: FAO)の報告書によると、近年50年間の世界人口の増加率が1.6%であるのに対し、年間一人当たりの水産物の消費量は3.2%で増加しており、水産物がますます人類にとって重要な食料となっている。一方で、地球温暖化が進行し、多くの海洋生物に影響が及びつつある。食料保障の面からも重要水産資源の特性を明らかにし、地球温暖化等の環境変化に対する応答を予期しつつ、持続可能な管理をしていくことが重要とされている。このことは、国際連合がまとめた持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SGDs)のGoal 14に通じるものである。
カタクチイワシ属は、世界の温帯・熱帯の様々な海域に生息しており、重要な漁業資源として利用されている。その漁獲量は、世界最大の漁獲量を示すペルーカタクチイワシに代表されるように膨大で、スケトウダラと並び、二大漁獲物となっている。さらに、気候変動に対応して大規模な変動を示すことが知られており(Chavez et al., 2007)、全世界の漁獲量では、1970年代から1980年代中盤にかけて減少し、1990年代に増大している(図1)。また、カタクチイワシ属は、魚食性の小型浮魚類(マサバ等)、大型浮魚類(カツオ、マグロ等)、頭足類(アカイカ等)、海生哺乳類(クジラ等)、海鳥類の重要な餌料となっており、海洋生態系の中で基礎生産、二次生産と高次生産を繋ぐ重要な役割を担っている(Cury et al, 2000)。したがって、カタクチイワシ属の生物特性を明らかにし、その生活史戦略を考察し、今後起こり得る地球環境変化への応答を予期するための基礎的な知見を得ることは、カタクチイワシ属だけでなくカタクチイワシ属を摂餌する漁業資源および海洋生態系全体において重要な課題である。

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メンバー

  • 伊藤進一(東京大学大気海洋研究所)
  • 松山倫也(九州大学農学研究院)
  • 米田道夫(国立研究開発法人水産研究・教育機構・瀬戸内海区水産研究所)
  • 高橋素光(国立研究開発法人水産研究・教育機構・西海区水産研究所)
  • 橋岡豪人(国立研究開発法人海洋研究開発機構)
  • 北川貴士(東京大学大気海洋研究所)
  • 松村義正(東京大学大気海洋研究所)