東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(許浩東)

研究タイトル:北太平洋におけるマイクロプラスチックの分布と輸送の長期変動と未来予測


1950年代から、プラスチック製品の大規模生産が始まり、時間の経過とともに、廃棄物も増加しています。プラスチック廃棄物のほとんどが管理されている一方で、毎年数百万トンのプラスチックが不適切に廃棄され、河川・海岸・船舶などを介して海に流れ込んでいます(Jambeck et al., 2015; Lebreton et al., 2017)。
一方、海は数千年にわたり、漁業資源・や洋上航路などの供給サービス・穏やかな気候を作り上げる調整サービスを人類に提供してきましたが、現在、水温上昇・酸性化・乱獲、そしてプラスチック汚染など人類の影響で海洋環境が悪化しています。
プラスチックは海洋生物(哺乳類・海鳥など)に生理的な影響を与えることが報告されていますが、5mm未満のプラスチックと定義されているマイクロプラスチックは小型の低次栄養段階の水生生物(小型浮魚類・動物プランクトンなど)に機能障害を引き起こすことも飼育実験で検証されています。
プラスチックの影響は個々の生物だけでなく、生態系全体への影響も懸念されています(John et al., 2022)。
その背景に踏まえ、プラスチックの分布と存在量に関する研究が多く実施されていますが、長期的な分布・輸送に関わる研究は限られています。私が行っている研究は、マイクロプラスチックの長期変動を解明し、未来予測を行うために、海洋マイクロプラスチックの振る舞いとして重要な沈降速度・表層除去速度・分解速度を観測結果とモデル計算結果を比較することで求めています。

1. ネット採集
研究対象である北太平洋において、表層浮遊マイクロプラスチックをニューストンネットで採集します。



2. コア採集
沈降速度の評価とモデルとの比較をするために、マルチプルコアラーを用いて海底堆積物を採集します。


3. マイクロプラスチック分離
濃縮海水サンプルと堆積物サンプルは酸化処理と密度分離をし、マイクロプラスチックを取り出します。



4. サイズ分け
目に見える(ここでは350μm以上)プラスチックは重さと長さを計測し、目に見えない粒子は濾過し、フィルターに集めます。




5. FTIRとATRによる分析
取り出したサンプルをフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で測定します。ろ過したサンプルは顕微FTIRでスペクトルと長さと測ります。
目に見える破片はAttenuated Total Reflection(ATR)でスペクトルを測定します。


6. 沈降性プラスチックの数値モデル
数値モデルを用いて、日本から流出した沈降性マイクロプラスチックの堆積分布を計算します。
この図を見ると、日本沿岸域と黒潮続流域でマイクロプラスチックが多く堆積していることが分かります。
そして、外洋にも広がっていることが分かります。


7. 浮遊性プラスチックの数値モデル
同様に数値モデルを用いて浮遊性マイクロプラスチックの分布を計算します。
季節により、表層の流れが異なる特徴があり、Great Pacific Great Patch(GPGP)と呼ばれるプラスチックが集積する海域が季節的に位置を移動します。



8. 観測との比較
水産研究・教育機構が65年間にわたり採集した稚魚ネットサンプルに含まれるマイクロプラスチックデータと数値モデル結果を比較し、表層除去速度を見積ります。
例えば、ある年のサンプリング位置におけるモデルと観測の比を以下の図で表しています。


9. SDGsへの貢献
マイクロプラスチック分布と輸送の長期変動と未来予測を研究することで、環境への負荷を定量的に評価化できると考えています。
このことは、SDGsの14番目標である「海の豊かさを守ろう」および「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」の7つ目標の内、「きれいな海」・「生産的な海」・「夢のある魅力的な海」の実現に大きく貢献します。
Ocean is the place where everyone began, where all hearts belong.