研究活動(矢部いつか)
研究タイトル:サンマ回遊経路の非連続性を作るIsoguchi Jetの実態解明
日本列島の東側を流れる亜熱帯循環の一部である黒潮(温暖・貧栄養)と亜寒帯循環の一部である親潮(寒冷・栄養豊富)の間には、混合水域が存在し、二つの異なる水塊が複雑に混ざり合います。潮目と呼ばれるこの異なる水塊の境界は、よい漁場として利用されています。また、サンマをはじめとする多くの小型浮魚類は温暖な黒潮・黒潮続流域を産卵場とし、餌の豊富な亜寒帯域を索餌海域として利用するため、回遊の際に混合水域を利用します。
磯口ジェットは、黒潮続流から分岐して亜寒帯域に向かう混合水域を流れる暖流です。人工衛星で観測した海面高度データの蓄積により、2006年にその存在が明らかとなりました(Isoguchi et al., 2006)。温暖で貧栄養の亜熱帯水を北に輸送するとともに、隣接する寒冷で栄養塩豊富な親潮水と混ざることで、混合水域における水塊混合の一端を担います。しかしながら、隣接する親潮との水塊混合のプロセスやその変動要因ついてはまだ明らかとなっていません。
本研究では、磯口ジェット(亜熱帯水)と亜寒帯水の混合過程を海洋観測データに基づいて明らかにし、その混合要因を明らかにすることを目的としています。磯口ジェットの下流域にはよい漁場が形成されることも知られており、餌生物の増殖に必要となる栄養塩の循環にも寄与していることが期待されます。
海流や水塊分布などの海洋環境は、水産資源の成長や生残にも影響を与えます。その成り立ちや変動要因を明らかにすることを通じて、近年ニュースでも取り上げられているサンマの不漁といった資源量の変動の解明にもつなげていきたいと考えています。
1. 海洋観測(船舶観測) 調査船で研究対象海域に行き、データを取得します。 写真は、CTDという観測機器です。海面から海底付近まで下すことで深さ方向の水温・塩分などを計測します。 採水器を使って特定の水深の海水を採取することもできます。 |
2. 海洋観測(係留観測) 流速計や水温・塩分計を搭載した係留計を海に沈めて継続的なデータを取得することも可能です(数日~数年)。 写真は、設置風景です。 オレンジの浮きの中に流速計が入っています。 |
3. データ解析 主に海洋観測で取得したデータを研究室で解析します。 必要に応じて、一般に公開されている人工衛星の観測データや再解析値、シミュレーションの結果なども使用します。 解析ツールは人それぞれですが、研究室ではPythonやMatlabが主流です。 |
4. 磯口ジェットとは? 磯口ジェット(赤矢印)は、黒潮続流(破線矢印)からの分岐流であり、黒潮由来の暖かい水塊を北に運びます。隣接する冷たい親潮(青矢印)との間には強い水温フロントが形成されます。 地図の黒いラインで観測したデータから磯口ジェットの構造を調べていきます。 |
5. 流速分布 流速の緯度-水深分布です。 G10–11付近に流速が最も強い流軸があり、表層では0.5 m s-1を超える流れとなっています。 0.1 m s-1を超える流れが水深600 m付近まで存在します。 |
6. 水塊分布。 流速の緯度-水深分布です。等値線は海水の密度を示します。 南側には磯口ジェット由来の暖かい水塊が、北側には親潮由来の冷たい水塊が分布しています。 |
7. 硝酸塩分布 栄養塩の一種である硝酸塩の緯度-水深分布です。 磯口ジェット由来の暖かい水塊では濃度が低く、親潮由来の冷たい水塊では濃度が高いことがわかります。また、水深とともに濃度が上昇しています。 磯口ジェットの流軸付近の水深600m以深で硝酸塩濃度が局所的に高くなっています。 |
8. 硝酸塩分布 縦軸を密度に変え、浅いところが拡大された硝酸塩の分布です。 流軸付近では、深いところだけでなく浅いところ(26.0σθ浅いところ付近)でも濃度が高くなっていることがわかります(赤い四角)。 この栄養塩はどこから来たものでしょうか? |
9. 栄養塩の供給ポイント 上流側の観測データから、星印で示したIIライン付近で水塊混合起こったがことがわかりました。ここは、磯口ジェットと親潮の接近点です。 |
10. フロントの強化 磯口ジェットと親潮の接近域(IIライン)はフロントが強化する領域であることがわかります。 |
11. 湧昇流 フロントの強化域では周囲よりも強い湧昇流が発生し、それに伴う等密度面の歪みも見られています。 この湧昇流が水塊混合のきっかけになっていると考えています。 |
12. 混合プロセスは? 水塊混合の発生にはさらなるプロセスが必要です。 ・内部波 ・サブメソスケール構造 ・乱流混合 などに着目して、栄養塩供給に寄与する水塊混合プロセスを明らかにしていく予定です。 |