研究活動(王業浩)
研究タイトル:大槌湾におけるマイクロプラスチックの挙動に関する研究
プラスチックの生産量は、2015年には全世界で年間 4億700万Mトンとされ(OECD , 2018)、これまでの総量は83億Mトンに達すると言われています。プラスチックは海洋に多量に流入し、それらが砕片化することでマイクロプラスチック (MPs) となることが知られており、近年、海洋環境への影響が問題視されています (Andrady et al., 2011)。全球の海洋中のMPsは表層に27 万Mトンが浮遊していると言われ (Eriksen et al., 2014)、その分布は赤道域から両極域まで世界中に広がっていることが確認されています(Lusher et al., 2015; Isobe et al., 2019)。また、東アジアの縁辺域でその濃度が高いことも報告されています(Isobe et al, 2015)。
特に、日本沿岸域では、漂流しているMPsの存在量は1720000個km-2と推定されており、世界の平均値より27倍も高いことが指摘されています(Isobe et al.,2015)。その一方で、海洋に流出したMPsの大半は最終的に海底に堆積することも指摘されていますが(Winnie et al., 2020; Matsuguma et al., 2017)、日本の沿岸域における海水中並びに海底堆積物中のMPs汚染状況に関する知見は未だ不十分です。また、MPsの濃度分布の重要な規定因子である輸送過程に関して、水平方向の輸送過程については研究が進んでいますが(e.g., Isobe et al., 2014)、鉛直方向の沈降・拡散過程については未解明の点が多く、河川水がMPsの挙動に与える影響も明確でありません(Wang et al., 2021)。
以上の問題を解決するため、本研究では、近傍の人口も大規模ではなく、半閉鎖型な三陸沿岸の大槌湾を対象海域とすることで、主に河川から供給されると推定されるMPsに注目することで、海水中並びに海底堆積物中におけるMPsの沈降過程を解明することを目指しています。
1. 現場観測 ニスキンボトル(12L)という採水器で採水を行います。 |
2. 現場観測 SM式(アシュラ)採泥器を用いて長さが約20cmの海底堆積物(コア)を採取します。 |
3. サンプル処理(1) コンタミを防ぐため、除塵フード中でマイクロプラスチックを分離します。 NaI溶液(密度1.6 g/cm 3 )で密度分離し、その上澄みを採取します。また生物由来の有機物を除去するため、過酸化水素を加えます。 |
4. サンプル処理(2) 処理した試料中の粒子は減圧ろ過し、直径25 mm、孔径1μmのPTFEフィルターに捕集します。 |
5. FTIR (Fourier transform infrared spectrometer)による測定(1) マイクロプラスチックを、大気海洋研究所内のフーリエ変換赤外分光光度計(Thermo Scientific製) によって測定します。 |
6. FTIRによる測定(2) 赤外吸収スペクトルから、マイクロプラスチックの種類、サイズと個数を求めます。 |
7. モデルを用いた粒子沈降実験 観測の結果をもとに、数値モデルと組み合わせて水平方向の輸送過程と鉛直方向の沈降・拡散過程を推定します。 |
8. 引用文献 OECD (The Organization for Economic Co-operation and Development) 2018. Improving Markets for Recycled Plastics - Trends, Prospects and Policy Responses: 17 Andrady, A. L. (2011). Microplastics in the marine environment. Marine Pollution Bulletin, 62(8), 1596–1605. Eriksen, M., Lebreton, L. C. M., Carson, H. S., Thiel, M., Moore, C. J., Borerro, J. C., … Reisser, J. (2014). Plastic Pollution in the World’s Oceans: More than 5 Trillion Plastic Pieces Weighing over 250,000 Tons Afloat at Sea. PLoS ONE, 9(12), e111913. Lusher, A. L., Tirelli, V., O’Connor, I., & Officer, R. (2015). Microplastics in Arctic polar waters: The first reported values of particles in surface and sub-surface samples. Scientific Reports, 5. Isobe, A., Iwasaki, S., Uchida, K., & Tokai, T. (2019). Abundance of non-conservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066. Nature Communications, 10(1), 417. |
9. 引用文献 Isobe, A., Uchida, K., Tokai, T., & Iwasaki, S. (2015). East Asian seas: A hot spot of pelagic microplastics. Marine Pollution Bulletin, 101(2), 618–623. Courtene-Jones, W., Quinn, B., Ewins, C., Gary, S. F., & Narayanaswamy, B. E. (2020). Microplastic accumulation in deep-sea sediments from the Rockall Trough. Marine Pollution Bulletin, 154, 111092. Matsuguma, Y., Takada, H., Kumata, H., Kanke, H., Sakurai, S., Suzuki, T., … Newman, B. (2017). Microplastics in Sediment Cores from Asia and Africa as Indicators of Temporal Trends in Plastic Pollution. Archives of Environmental Contamination and Toxicology, 73(2), 230–239. Wang, Y., Nakano, H., Xu, H., & Arakawa, H. (2021). Contamination of seabed sediments in Tokyo Bay by small microplastic particles. Estuarine, Coastal and Shelf Science, 261, 107552. |