東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(林珍)

        

状態空間モデルを用いた地球温暖化の成長への影響検出に関する研究

        
プレスリリース「日本周辺の魚類の小型化 ―温暖化により顕著になった餌をめぐる競合―」
        
英文プレスリリース"Climate change shrinking fish: Global warming increased competition for food in the 2010s, leading to decreased fish weight in important fishing area"
        
過去100年間に海面の水温は約1.3℃上昇し、深海にも影響が及んでいます。
また、Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC)評価報告書によると、たとえ人類が温暖化気体の放出を止めたとしても、地球温暖化が今後数十年間持続すると予測されています。
地球温暖化が海洋生態系に様々な影響を与えることが危惧されていますが、水温上昇の直接的な作用として「温度-サイズ則」(Temperature-Size Rule, TSR)があります。
TSRとは、水温が高くなると、呼吸代謝が高まり、体長を大きくすると呼吸代謝の増加に見合う摂餌量の確保が困難となるため、成熟体長を小さくすることで子孫の確保を行う生物的な適応戦略と位置付けられます。
結果的に、低緯度(高水温)に生息するものが、高緯度(低水温)に生息するものよりも最大体長が小型であることが多くの生物種で確認されています。
地球温暖化による高温化に対してもTSRが作用する可能性があり、特に外温動物である魚類の場合は顕著にTSRが働くことが予想されます。
TSRによる魚類の小型化は漁獲量の減少につながる恐れもあり、TSRの規模を生態系スケールで定量化することが必要とされています。
近年、長期漁獲データを用いたTSRに関する研究が盛んに行われていますが、餌料変化、漁獲圧変化など、水温以外の要因の分離が必要となっています。
そこで、本研究では、日本周辺の魚類の体重変化を調べ、水温に加え餌料変化、漁獲圧変化などの影響を分離することを目指しています。


1. 体重データベースの構築

水産庁および水産研究・教育機構が発行している魚種別系群別資源評価票から年齢別の体重・体長データが記載されている魚種を探索しデータベースを構築します。
同時に環境要因データ(海面水温、混合層深度等)を整理します。


2. 同期的体重変動の抽出

異なる種間で、同じ要因によって制御されている体重変動を抽出するため、動的因子分析(Dynamic factor analysis; DFA)によって、体重の同期性を調べます。




3. 状態空間モデルの構築

体重変動を説明するプロセスモデルと観測誤差を関連付ける観測モデルを構築し、動的因子分析で求められた同期変動モードを表現可能な状態空間モデルを構築します。



4. 体重変動要因の評価

水温、餌料、漁獲圧など複数の要因の組み合わせを変化させ、最適な状態空間モデルを構築します。
最適モデルを用いた分析から、日本周辺海域の魚類群集が体重変動を引き起こすメカニズムを定量化します。
同時にTSRの定量的評価を行います。


5. 全球的なTSR効果の比較

世界各海域における共同研究者らのTSR解析と比較し、地球温暖化に対するTSRの効果を評価します。