東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(青野智哉)

        

耳石酸素安定同位体比を用いた日本海におけるマイワシの回遊特性に関する研究

        
多くの魚類の資源量(存在量)は変動しており,中でもマイワシは変動の規模が大きいことで知られています.
近年の日本におけるマイワシ漁獲量は1980年代後半から2000年代前半の十数年の間に,約150分の1まで減少しました.
このような変動には太平洋十年規模振動(PDO)などの数十年スケールでの気候と海洋環境の変動が関わっていると考えられていますが,PDOが資源量変動を引き起こすメカニズムについては未だに明らかになっていません.
資源量変動のメカニズムを議論するためには,マイワシの基礎的な生態(産卵場,回遊経路)を明らかにし,初期生活史における成長や,その後の分布,回遊経路が,環境変動によってどのように変化したのかを比較する必要があります.
日本海側を回遊するマイワシにおいては産卵場調査により,いつどこで産卵されているかは明らかにされていますが,その後の成長過程における分布や回遊についての情報は少ないというのが現状です.そこで,本研究では耳石の酸素安定同位体比(δ18O)を分析することで,マイワシがどのような環境で生活していたか,どこを泳いでいたかを明らかにし,これを資源量が多かった年,少なかった年で比較することで,どのような環境要因がマイワシ資源に影響を与えているかを解明しようとしています.


1. 耳石の摘出

マイワシから耳石を摘出し樹脂に固定します.



2.日周輪計測

日周輪解析システムを用いて耳石の日周輪(成長線)の数,間隔を計測します.


3. 切削

1μmでの操作が可能な高精度マイクロミリングシステムを用いて耳石を日周輪に沿って切削します.


4. 回収・反応


切削して得た粉末状の耳石試料を顕微鏡下で反応管に回収します.
その後,真空・25℃一定条件下で試料をリン酸と反応させ,二酸化炭素を発生させます.



5. 安定同位体比分析(酸素安定同位体比δ18O)

微量の試料(1μg以下)も扱うため,京都大学の石村さんが開発されたMICAL3cという従来の1/100の量の試料を高精度で分析できる装置で安定同位体比分析しています.


6. 回遊分布域推定


分析したδ18Oと海洋同化モデルを組み合わせ回遊分布域を推定しています.
資源量の多い年と少ない年のサンプルを比較し,回遊や経験した環境の違いを調べ,何が原因で資源量が変動しているのかを明らかにしようと頑張っています.