研究活動(榎本めぐみ)
研究テーマ:耳石酸素安定同位体比を用いた東シナ海マアジ稚魚の近底層移行時期の推定
プレスリリース「マアジの発育に伴う深い生息層への移行 ―耳石に刻まれた化学成分の変化から―」
東シナ海のマアジは、稚魚になると表層(10~30m)から近底層(70~140m)に生息環境を移行させます(Sassa and Konishi et al., 2006; Sassa et al., 2009)。
一般的に、魚類は仔稚魚期に初期減耗が起こり、その時期を生き残れるのはわずかな個体だけです。
東シナ海のマアジの場合、近底層に移行すると初期減耗から逃れられると考えられています。
そのため、近底層に移行する時期や要因を調べることはマアジの生残過程を理解する上で重要です。
近底層移行時期や要因を解明するため、耳石の酸素安定同位体比を用いた研究を行なっています。
耳石の酸素安定同位体比は、耳石の輪紋ができたときの水温と海水酸素安定同位体(塩分と相関)に依存します(Campana, 1999)。具体的には、低水温・高塩分であるほど耳石の酸素安定同位体比の値は高くなります。
東シナ海の陸棚上では、深くなるほど低水温・高塩分になるので、近底層に潜るほど耳石の酸素安定同位体比の値は高くなると考えられます。
この性質を利用して、マアジがいつ近底層に移行するのか、その要因は何かを研究しています。
1. 耳石サンプル 水産研究・教育機構 西海区水産研究所から提供頂いたアーカイブ耳石試料を使います。 頂いたままの状態だと耳石の包埋材が分析に影響を及ぼす可能性があるため再包埋をします。 |
2. 耳石の再包埋 包埋材を有機溶媒で溶かし、耳石を再包埋します。 新しいスライドガラスに、分析に影響しない樹脂を使って耳石を包埋します。 |
3. 包埋し終わった後の耳石 樹脂を固めたあと、平らになるように研磨します。 |
4. 耳石の研磨 頂いた耳石はすでに日輪が読める状態なので、輪紋を消さないよう慎重に研磨します。 輪紋が形成されたときの化学組成を調べるため、輪紋が消えてしまったものは分析から外します。 |
5. 耳石日輪解析 耳石日輪解析システムで5日もしくは10日間隔のマークを画像上に行います。 この画像データを基に切削箇所を指定します。 |
6. マイクロドリル 耳石日輪解析システムで作った画像データを1μm単位で切削できるシステムに移します。 |
7. マイクロドリルによる切削 目当ての場所が削れるようパソコンと実際の切削箇所を見比べながら調節ができたら切削箇所のマークに沿って耳石をごりごりと削ります。 目当ての場所が削れているよう全力で祈ります。※この写真は練習時に撮ったものです。 |
8. 耳石紛 削れたら粉を回収します。 この粉を分析することで、切削した日輪が示す日齢の耳石酸素安定同位体比を分析します。 |
9.耳石紛の回収 回収した粉は短いバイアルに入れます。 この後、この粉を分析にかけます。 |
10. 切削状況の確認 分析の前に、耳石日輪解析システムで、ズレなく削れてるか確認します。 うまく削れたことが確認できたので、この耳石から取れた粉を分析します。 |
11. 酸素安定同位体比分析 バイアルに入れた粉をリン酸と反応させて、二酸化炭素にします。 沿岸海洋研究センターの白井先生が管理されているDelta-Vで、反応して出てきた二酸化炭素の酸素安定同位体比を分析します。 |
12. 分析結果 耳石の酸素安定同位体比を分析して、長い期間をかけて徐々に近底層へと移行するマアジの行動様式が浮かびあがってきました。現在論文執筆中です。 |