東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(金子仁)

        

研究テーマ:表層水温がマサバ太平洋系群の資源量変動に与える影響

        
最近値段が高騰するほどブームになっているサバは1、我国の重要な水産資源のひとつです。金子らは、マサバの太平洋系群 (以下マサバ) に着目し、加入 (新規に資源に加わること) の度合いと、マサバが経験する水温との関係を明らかにすることを目的として、数値計算による実験と統計解析を用いて検証を行いました (本研究の成果は Kaneko et al., 2018 としてまとめられています)。         
1サバブーム”で値上げ相次ぐ 「これ以上高騰すると…」老舗干物店から不安の声https://www.fnn.jp/posts/00434440HDK         
これまでの研究によると、マサバの主な産卵場である伊豆諸島周辺海域 (図1) の冬季表層水温が低い方が、その年の加入成功率が高いことが示されていました (Yatsu et al., 2005)。一方で、室内実験からは、仔魚の経験水温が高い方が成長が良い2ことが分かっており (Hunter andKimbrell, 1980)、また、仔魚の成長が良い年の方が加入成功率が高いことも示されていました(Kamimura et al., 2015 )。
2水温 17~22℃の範囲において         

図1. マサバの初期生態における主な分布海域と、関係する海流等の模式図. 等値線は海面高度の平均値 (1993‒2015年).

しかし、 マサバがブームとなってきた近年の冬季の産卵場水温とマサバ加入成功率の関係は十分に検証されておらず、また、成長速度の見積もり (Kamimura et al., 2015) は、それぞれの魚が生まれた海域が伊豆諸島周辺海域であるかどうかはわからないなどの問題がありました。そこで、この研究では伊豆諸島周辺海域を産卵場とみなして、水産研究・教育機構の海況予測システムFRA-ROMS によって得られた海洋環境の再解析データを用いて、これらの疑問に答えるべく研究を行いました。
2000年から2012年までの水温データを用いて各年のマサバの加入成功率との相関を計算し、空間的にマッピングしたところ、主な産卵場である伊豆諸島周辺で2月下旬から3月にかけて負の相関がみられました (図2)。このことは既往研究と整合的な結果でした。

図2. 相関係数 r の空間分布 (各年のマサバ加入成功率と各グリッドにおける海面水温の相関係数).等値線は海面高度 (1993‒2015年の平均値).

一方、コンピューターを用いて、流速のデータをもとに、産卵場付近から卵がどのように流れていくのかについて見積もる実験を行い、その過程で卵がどのような水温を経験したかを推定しました (図3)。経験平均値の各年の変動と加入成功率を比較したところ (一例を 図4 に示します)、4月上旬に放流した粒子の経験水温と加入成功率との間に顕著な正の相関がみられました (図5)。この結果は、4月上旬に伊豆諸島周辺で産み落とされた子どもが経験する水温がその年の加入にとって重要であることを示しています。この時期は Kamimura et al. (2015) によって推定された産卵時期とよく合っていました。これらの結果から、産卵場と産卵時期、成長・加入に関わる知見を得ることができました。

図3. 粒子追跡実験の例. 各年の4月5日に放流したもの. 色はその時々の経験水温を表す.


図4. 経験水温と加入成功度 (ここでは加入成功率を規格化したもの) の時系列.エラーバーは 95%信頼区間. 図 3の経験水温から計算.

冬季産卵場の水温と粒子追跡によって推定された経験水温、説明変数として含む、加入成功率の重回帰モデル3 を、Yatsu et al. (2005) を参考に推定したところ、冬季産卵場とマサバ産卵親魚量を説明変数とするモデルでは5年程度の期間の変化によく対応し、 R2=0.41 でした(Yoneda, 2017)。さらに、経験水温と産卵親魚量を説明変数とするモデルでは数年規模の変動にもよく対応し R2=0.56 でした (図6)。
3リッカー型。マサバ産卵親魚量も説明変数に含む

図5. 経験水温と加入成功率の相関係数を粒子放出日 (横軸) と経過日数 (縦軸) を変えて計算し、マッピッングしたもの

冬季の産卵場付近の表層水温と加入成功率の間にみられる負の関係は、親魚が経験する環境の影響を示しているものと考えられました。具体的には良好な餌環境や、生理特性を通じた良質の卵の形成 (米田, 2017) がプラスに働いていることが予想されます。一方、春季以降の粒子経験水温と加入成功率の間にみられる正の関係は、子ども (仔魚) の成長にとって高い水温の方がプラスに働くという影響 (Hunter and Kimbrell, 1980) と対応していることが考えられました。 以上のことから、マサバにとって、親が産卵直前に経験する環境水温が高く、子どもが生まれてすぐに経験する水温が低いと加入がよくなるということが示唆されました。一見すると相反するような条件ですが、暖流である黒潮が流れる伊豆諸島周辺海域をうまく利用することで、マサバはこの難しい条件をクリアーしていると考えられます。逆の見方をすれば、太平洋をひろく泳ぎまわるマサバですが、中でも伊豆諸島周辺海域はマサバにとって大変重要な海域であるとも言えるでしょう。こうしたマサバの生態・資源変動と結びついた海洋環境の関わりを知ることで、より良い海の資源の活用法を考えることができるかもしれません。

図6. 加入成功度の基準値と二つのモデルを用いた推定値の時系列

【参考文献】

Hunter, J.R. and Kimbrell, C. A. (1980) Early life history of Pacific mackerel, Scomber japonicus. Fish. Bull. 78: 89–100.


Kamimura, Y., Takahashi, M., Yamashita, N., Watanabe, C. and Kawabata, A. (2015) Larval and juvenile growth of chub mackerel Scomber japonicus in relation to recruitment in the western North Pacific. Fish. Sci. 81: 505–513 doi: 10.1007/s12562-015-0869-4.


Yatsu, A., Watanabe, T., Ishida, M., Sugisaki, H. and Jacobson, L. D. (2005) Environmental effects on recruitment and productivity of Japanese sardine Sardinops melanostictus and chub mackerel Scomber japonicus with recommendations for management. Fish. Oceanogr. 14: 263–278. doi: 10.1111/ j.1365-2419.2005.00335.x


米田道夫 (2017) 「マサバ資源変動のカギを握る水温と 母親の影響」日本水産学会誌, 83: 837, https://doi.org/10.2331/suisan.WA2447-3