東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(薬師寺雄樹)

        

研究テーマ:津波による底質攪拌が有機スズ化合物の残存濃度に及ぼす影響について

        
船底防汚剤とは、燃費の低減や汚損の原因となる藻類や海洋生物が船体へ付着することを防止する目的で船体へ塗装されている防汚塗料中の成分であり、環境汚染物質や環境ホルモンとして問題となっています。特に有機スズ化合物は高い毒性や環境残留性が問題となり現在は使用禁止されていますが、日本においては1990年まで使用されていました。これらの成分について、分解性や環境中濃度の研究はありますが、水層-底質間での吸脱着や分解、水中での移流・拡散といった実際の海洋環境を考慮した挙動や残留性の詳細な研究はこれまで行われていません。
        
また、2011年3月11日には東北地方太平洋沖地震に伴う津波が発生し、底質の大規模な移動が確認されましたが、その具体的な影響やリスクについては詳細に記述されていません。
        
そこで本研究は、大槌湾底質中の有機スズの水平/鉛直方向での濃度マップを作成し、湾内有機スズ残留の現況を明らかにすることを目的としました。
        

        


1. 有機スズのサンプリング

本研究では特に過去の使用量の多かったトリブチルスズ(TBT)とその分解生成物であるジブチルスズ(DBT)、モノブチルスズ(MBT)及びトリフェニルスズ(TPT)とその分解生成物であるジフェニルズス(DPT)、モノフェニルスズ(MPT)を対象物質として、岩手県の大槌湾で底質サンプリングを実施しました。


2. 環境データの取得

CTD(電導度-水温-深度計)を用いて、水温、塩分濃度、クロロフィルα濃度等の海洋データも観測しています。

3. コアサンプル処理

底質はG.S.型採泥器によりコア状にサンプリングしました。取得した底質は1cmごとにスライスして冷凍保存します。誘導体化GC/MS法によりサンプル底質中の有機スズ化合物を定量し、地点間の濃度差や垂直濃度分布について調査します。

4. 室内実験

人工海水および大槌湾底質を用いて、実験室環境下において、水温、光強度、加水分解、生分解といった各パラメータが水層や底質中での分解性および水層と底質での吸脱着に与える影響を調べる予定です。

5. 今後の方針

これらのデータを統合して、湾内残留濃度および津波の物理的影響や底質環境に与えるリスクを評価するとともに、有機スズの分解性や吸着性といった防汚剤Fateプロセスを導入した湾内の移流・拡散シミュレーションを実施して、現実の環境条件下における汚染物質としての有機スズの挙動や残留性を評価する予定です。