東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(藤井孝樹)

        

研究テーマ:三陸大槌湾内で支配的なうねり性波浪の起源推定

        
波浪は、風からのエネルギー入力により発達過程にある風波と、風波が風域を離れて減衰過程にあるうねりの総称で、現実の波浪は両者が混在しています。         
三陸の内湾域では、沖合で発生し湾内に伝播してきたうねりの影響が強いことが以前から知られており、そのため、三陸のリアス海岸特有の多種多様な湾口部の形状に依存して、湾内波浪の特性は湾ごとに異なり、湾内の波浪に影響を与えるうねりの発生海域も湾ごとに異なる可能性が指摘されています (Komatsu and Tanaka, 2017)。         
現業の波浪予測モデルは沖合域を対象としており、三陸のような数km程度の水平スケールの小規模湾内の波浪を予測する体制にはなっていません。一方、三陸内湾域は養殖業や採介藻漁業が盛んで、その大半は数トン程度の小型漁船で行われるため、1 m程度の波高でも作業ができない場合があり、波浪予測に対する需要は高いです。
        
本研究では、三陸の代表的な半閉鎖湾である岩手県の大槌湾を対象とし、沖合から伝播して、湾内の波浪に支配的に影響を与えるうねりの起源を解明することを目的としました。
        

        


1. 風波とうねり

波浪は、風からのエネルギー入力により発達過程にある風波と、風波が風域を離れて減衰過程にあるうねりの総称で、現実の波浪は両者が混在しています。


2. うねりの起源

アメリカ西海岸に伝播して来るうねりが15,000 kmも離れた南極沖合の暴風域を起源としていることはよく知られている一方で (Munk et al., 1963)、三陸のうねりの起源は果たしてどこなのか、そして何故そこなのかといった力学的な課題が残されています。


3. GPS波浪ブイ観測

大槌湾内南部の長埼沖の水深40mの場所に係留・設置した風速計付きGPS波浪ブイで観測したデータの内、比較的安定してデータが得られた2012年10月~2016年12月のデータを利用しました。


4. 大槌湾内の有義波高と沖合海上風速との関係

波浪ブイのデータから、大槌湾内の波浪は、季節によらず北東方向 (60度) の沖合から伝播してきたうねりが支配的であることが分かりました。湾内の有義波高と沖合海上風の大槌湾に向かう方向の風速成分との間の時間ラグ相関係数も、季節によらず湾口が開いた60度の方向に有意に高く、平均すると大槌湾から300 km付近に位置することが分かりました。


5. うねりの起源海域の推定

実際の波浪は、様々な波高、周期、波向の波が相互作用しており、単純ではないため、波浪の非線形相互作用の過程を高精度に組み込んだ Komatsu and Masuda (1996) のモデルによる追算実験の出力から、大槌湾の湾口に最も近いモデル格子点で最大波高が推定された12月5日4時を起点とし、2次元スペクトルの波向60度の成分を抽出して逆追跡を行ないました。その結果、大槌湾内に伝播して来るうねりの起源海域は、湾から60度方向の沖合、中心を300 km付近とする海域であることが推定された。