東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(李沁瑶)

        

研究テーマ:漁獲量データから推測される日本沿岸域の魚類分布の移動に関する研究

        
過去1世紀の地球温暖化は多くの生物の分布に影響を与えています。地球温暖化に伴う温度の上昇に伴い、高緯度へ、より高い海抜へ、より深い水深へと生物の分布がシフトすることが予想されます。         
日本沿岸においても生息域を亜熱帯に持つ生物種が北上している結果が、日本海において示されています。しかしながら、地球温暖化への応答は種によって一様ではなく、陸上と海洋の生物群を合わせた種の60%は予想通りにシフトしていないと報告されています。         
これら様々な生物種の分布の移動形態を統一的に説明する仮説として、Burrows et. al.(2011)が「気候速度の局所的な違いは種の分布シフトの不均質を説明できる」という仮説を提唱しました。また、Pinsky et.al. (2013)は、北米沿岸の海洋生物群の分布の移動を局所的な気候速度と比較し、上記の仮説を検証しています。
        
日本沿岸域においても同様な研究は行われていますが、対象種が限定されていて、網羅的な解析は未だ実施されていません。このため、本研究では、様々な漁獲対象種の漁獲データをもとに日本沿岸域の水産有用種の分布の移動を推定し、気候速度と比較することで、地球温暖化の海洋生物資源の分布に与える影響を検討します。
        

        


1. 漁獲データの取得

本研究では、1956~2015年の海面漁業魚種別漁獲量累年統計(都道府県別)を使用し、漁獲対象種ごとに、漁獲北端県、漁獲南端県、漁獲重心緯度および経度の時間的な変遷を調べ、水産生物資源の分布の移動を解析します。漁獲重心緯度および経度は、漁獲のあった都道府県の緯度・経度を漁獲量で加重平均した値です。

2. 気候速度

気候速度とは空間的な等温線の変化の速度と方向を指しています。
                          日本周辺海域の海面水温データセットを用いて気候速度を計算し、海洋生物資源の分布の移動と気候速度の関係を分析します。

3. 2003~2015年ニシン漁獲重心緯度の変動(太平洋側)

2003~2015のニシンの漁獲重心を解析してみた結果、太平洋側では漁獲重心緯度が北上する傾向を示していました。


4. 2003~2015年ニシン漁獲重心緯度の変動(日本海側)

太平洋側に対して、日本海側では漁獲重心緯度が南下する傾向を示しました。


5. 2003~2015年ニシン南端県の変動

太平洋側と日本海側の漁獲北端県は同じ北海道でしたが、漁獲南端県は漁獲重心の変動とそれぞれ一致した変化を示しました。


6. 今後の計画

今後は、2002年以前のデータを各都道府県で発行している印刷物から読み取り磁気化することで、より長期の変化を解析する予定です。
                          さらに、漁獲対象種別の適温水温帯を用いて気候速度を算出し、各漁獲対象種の漁獲重心の変化と相関分析を行う予定です。