東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(王子健)

        

研究テーマ:低次栄養段階生態系モデルと結合した日本太平洋岸におけるスケトウダラ成長モデルの開発

        
スケトウダラは日本において極めて重要な底魚資源の一つで、主に北海道沿岸に分布しています。そのなかで資源量が一番大きいのは北海道東南に分布している噴火湾ー道東系群です。         
毎年12月から翌年3月までスケトウダラ親魚は噴火湾湾口で産卵をし、その卵は風成流により湾内に輸送され、6月まで噴火湾内に滞在します。その後道南沿岸に沿って移動し、7月から8月ごろに道東海域沿岸部で着底します。3歳から性成熟を開始し、その後噴火湾湾口と道東海域の間を周期的に産卵回遊・索餌回遊します。         
スケトウダラの資源量は比較的安定していますが、それは数年に1度加入する卓越年級群もしくは豊度の高い年級群によって支えられています。卓越年級群の発生には、海面水温と季節風が影響しているといわれています。Funamoto (2007)の研究では、産卵盛期の2月の海面水温が高いと、スケトウダラ卓越年級群の形成に有利と報告されています。Isoda et al. (1998)とFunamoto et al. (2013)では、冬季の北西風が強いと、湾内にスケトウダラの卵や仔魚を輸送する風成流が発生し、卓越年級群の形成に寄与すると提唱されています。
        
しかしながら、水温、季節風、そのほかの餌料や捕食者の影響などの相対的な重要性はまだ不明です。この研究では、それらの要因を定量的に解析するためのモデルを構築することを目的としました。
        

        


  
1. 成長モデル

スケトウダラの成長を計算するため、スケトウダラの生物エネルギーモデル(NEMURO.FISH)を構築しました。
単位体重当たりの成長は、摂餌量によるエネルギー獲得と、呼吸を伴う代謝(主に遊泳)、消化エネルギー、排出、排せつ、卵形成によるエネルギー損失の差から計算されます。


2. 簡易モデルによる計算

成長モデル(生物エネルギーモデル)を動かすには、水温と餌料環境が必要です。簡単なボックス型の低次栄養段階生態系モデルNEMUROを使って季節変動に伴う栄養塩の変化を与えて、植物プランクトン、動物プランクトンの現存量を計算し、その動物プランクトンを摂餌してスケトウダラが成長する設定で計算を行いました。その結果、観測(図の丸印)に近い形の成長をモデル(黒線)で得ることができました。


3. 3次元モデルへの拡張

現実的な成長を示すモデルができたので、北海道大学の三寺さん、西川さんから提供して頂いた3次元の海洋循環-栄養塩循環モデルの結果をもとに基礎生産量(光合成量)を算出し、餌料プランクトン量に変換して、3次元空間でスケトウダラの成長と回遊を計算しました。


4. 初期条件

初期にスケトウダラの仔魚を噴火湾内に配置し、計算をスタートさせます。


5. 3次元モデルの計算結果

モデル内でスケトウダラは、着底時期が早いという問題を残していますが、北海道沿岸に沿って移動し、道東海域に着底しました。


6. 潮汐混合を除いた計算結果

3次元の海洋循環-栄養塩循環モデルには潮汐が海峡部などを通過するときに生じる伴う海水の混合過程が含まれています。千島列島などではこの潮汐混合が盛んで、混合された海水が親潮によって北海道沿岸にも流れてきます。その影響を調べるため、潮汐を含まない条件で同じ計算を実施しました。その結果、沖合に着底するスケトウダラが増えました。


7. 潮汐混合がある場合の成長

潮汐混合を含んだ設定で計算した場合のスケトウダラの成長です。


8. 潮汐混合がない場合の成長

潮汐混合を含まない設定で計算した場合のスケトウダラの成長です。


9. 潮汐混合の影響

両者の比較から潮汐混合があることでスケトウダラは沿岸域に着底でき、安定した成長を得ることができていることが推察されました。しかし、この数値実験はかなり簡易化した実験ですので、より現実的な条件での数値実験が今後必要です。