東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(黒山真由美)

        

研究テーマ:地球温暖化が日本周辺のサンゴの分布に与える影響の解明

        
造礁サンゴとは、体内に共生関係にある褐虫藻を有し、礁を形成するサンゴです。この共生褐虫藻は光合成を行いその生成物をサンゴに提供しているため、世界の造礁サンゴの生息域は十分な光量が得られる浅海域に限られています。サンゴ礁の面積は海全体のわずか0.1%であるにも関わらず、海全体の25%の生物多様性を保持していることが知られており(Fisher et al., 2015)、海洋生態系においてサンゴ礁は極めて重要な位置を占めています。         
しかし近年、加速する地球温暖化により白化(高温ストレスにより共生褐虫藻が体内から放出される現象)が起こるなどサンゴは危機に直面しています。         
また、温帯地域ではサンゴの生息域の北上も確認されています。しかし、その水温耐性や光量の影響などは十分にわかっていません。
        
そこで、既往研究により日本近海における分布域の北上がすでに確認されており、また今後地球温暖化によりさらにその生息分布が変化することが予想されているエンタクミドリイシに注目し、継続的に海水が循環している野外水槽を用いて、自然に近い水温や光量の季節変動を与えた飼育実験を行うことで、エンタクミドリイシの耐性をより正確に評価することを目的としています。
        

        


1. エンタクミドリイシ

エンタクミドリイシの一部を実験サンプルとして用います。
サンゴは勝手にとってはいけないので、許可を取って採取したサンプルをわけてもらいました。


2. 飼育水槽

筑波大学下田臨海実験センターの野外水槽で汲み上げ海水をかけ流しにして、自然の季節変動と同じような水温変化・光量変化を与えます。


3. 様々な水温・光条件で飼育

2つの野外水槽に12個の小さな水槽を設置して、ヒーターと遮光ネットを用いて、自然水温&100%光量、+5℃&100%光量、自然水温&50%光量、+5℃&50%光量という4つの条件の水槽をそれぞれ3つずつ用意します。


4. 影響測定

各水槽で3つの異なる親個体から採取したエンタクミドリイシのサンプルを飼育し、海水温が変化するにつれてサンゴにどのような影響が発生するか調べます。
                          測定項目としては、PAM蛍光法を用いた共生褐虫藻の光合成収率、サンゴの水中重量及び容積を2週間ごとに継続的に測定します。

5. 光合成収率測定前の暗順応

PAM蛍光法を用いて光合成収率を測定する前に、エンタクミドリイシを暗順応させる必要があります。通常の飼育環境との水温差によるストレスを減らすため、以下のように実験室内に自然水温と自然水温+3℃に設定した二つの水槽を用意します。


6. 光合成収率測定前の暗順応2

水槽にエンタクミドリイシのサンプルを設置し、暗幕をかけて最低30分間暗順応させた後、光合成収率を測定します。


7. 水中重量測定の様子

サンゴは複雑な形をしており、水分を除いた乾燥重量を測定するのが難しいため、水中重量を測定します。


8. モデルを用いた影響評価

実験結果を取り込んだ数値モデルを用いてエンタクミドリイシの将来の分布を推測し、地球温暖化の影響を評価する予定です。