東京大学大気海洋研究所 海洋生物資源部門 環境動態グループ

研究活動

研究活動(樋口富彦)

研究タイトル:マサバ、マアジ、スケトウダラの耳石酸素安定同位体比を用いた経験環境の推定


Higuchi et al. (2019, Deep Sea Research II)

プレスリリース「造礁サンゴの骨格が海水温によって変わる ~過去の海水マグネシウム/カルシウム変動を再現~」

マサバ、マアジ、スケトウダラ、この3種には以外な共通点があります。
3種とも、島々の周りに存在する複雑な海底地形に潮汐がぶつかり、海水が激しく混合している海域を利用しているのです。
マサバの産卵場は伊豆諸島周辺に形成され、マアジは南西諸島に囲まれた東シナ海に大産卵場があり、スケトウダラは千島列島を利用しています。
実は、潮汐には18.6年という長い周期の変動があり、その長周期変動がこれらの海洋生物資源に影響を与えている可能性があります。
この大胆な仮説のもと、マサバ、マアジ、スケトウダラの耳石の酸素安定同位体比から経験環境を推定して、その生活史を解明し、潮汐18.6年周期によってどのような影響があるか調べようとしています。
耳石の酸素安定同位体比はできたときの海水の酸素安定同位体と水温に依存します。ここから海水の酸素安定同位体の影響を除くことができれば、どんな水温のところを通ってきたが推定できるのです。
水産研究・教育機構や釧路水産試験場、茨城工業高等専門学校などと強力して、OMIXプロジェクトのもと、研究を進めています。

1. 水産研究・教育機構に保管されていたアーカイブ耳石試料。
大きさや包埋に用いた樹脂により、測定法や処理方法を検討します。


2. マアジ稚魚の耳石。
1日に一本輪紋が形成されます。


3. マサバ稚魚の耳石。
1日に一本輪紋が形成されます。


4. 沿岸海洋研究センターの白井先生が管理されているDelta-V。
様々な魚の耳石炭酸カルシウムの炭素・酸素同位体比の測定に使っています。


5. (短) 20-200 µg, (長) 50-500 µgの耳石から同位体比を測定します。
測定精度は<0.15‰。


6. 直径400 µm(0.4mm)の稚魚耳石。
試料によってはかなり小さいので、失くさないように顕微鏡で確認しながらの作業になります。


7. 測定機器に耳石そのままでは導入できないため、リン酸と反応させ二酸化炭素を発生させます。
発生した二酸化炭素の酸素安定同位体比を測定することで耳石の酸素安定同位体比を求めます。


8. 生元素分野の宮島先生が管理されているPicarro 2120-i。
海水中の酸素同位体比を測るのに活躍しています。
測定は5 µL(1000分の5 mL)からで、測定精度は<0.1‰。


9. 同位体分析のため海水を濾過フィルターに通します。
海水の酸素同位体比は一般的に塩分と良く相関します。
                          耳石の酸素安定同位体比から海水による酸素安定同位体比の影響を取り除くことで魚類の経験水温を推定することができます。