等温層より混合層が浅いとき、混合層の底と等温層の底の間の層をバリアレイ
ヤーと呼ぶ。バリアレイヤーの存在は海洋の混合層の消長に影響を与え、
したがって、たとえば海洋と大気との熱交換において重要な役割を果たす。
バリアレイヤーは赤道域ばかりでなく、亜熱帯域にも存在する。 Argoフロートが展開されたことによって、気候値データだけではわからなかった 北太平洋亜熱帯域のバリアレイヤーの特徴が明らかになった(Sato et al., 2004, GRL)。数少ない観測断面とArgoデータの解析から、バリアレイヤーの形成スケールは 数百kmであることが示唆されている。しかし、Argoデータを含む観測データのみでは 数百kmスケールの現象を捉えるのは難しく、バリアレイヤーの形成メカニズムの 定量的考察までは至っていない。そこで、本研究では、渦解像海洋大循環モデルの 日平均データを用いてバリアレイヤーの形成過程の考察を行った。 事例解析により、バリアレイヤーの形成には渦が関与していることが明らかになった。 渦周辺では等温層内に10cm/sほどの鉛直シアーが存在しており、この鉛直シアーに よって、海面付近にだけ渦を取り巻くように低塩分フィラメントが発達する。これに より、海面付近とその下層で塩分の鉛直勾配が大きくなり、バリアレイヤーが形成 されていることがわかった。 次に、バリアレイヤー層厚・出現頻度の季節変化(冬・春に厚く、頻度が高い)の 要因について考察した。バリアレイヤーの形成には渦が関与していたが、 渦活動度の季節変化はバリアレイヤーの季節変化と整合しないことがわかった。 解析結果から、バリアレイヤーの季節変化を支配しているのは、等温層深度の 季節変化であることが示唆された。 |