フィリピン東方の西部北太平洋ITCZ領域における冷水域について、
その気候平均場における特性と、
季節内変動、年々変動について調べた。
一般に西部北太平洋ITCZ領域は「暖水域」として知られているが、 衛星観測によるSSTを解析した結果、 北半球夏季に西部北太平洋ITCZ領域で低SST域を検出した。 この低SST域はミンダナオ島の東、 ミンダナオドームのすぐ南に位置していて、 SSTは春から夏かけてSSTが0.5℃程度低下する。 衛星観測の結果によると、 この海域では一年を通して東向きの流れが見られる。 この流れに対応して、 モルッカ海峡およびミンダナオドームから低水温の亜表層水が供給されていて、 Argoフロートによる観測データを調べることにより、 一年を通して亜表層の水温が周辺と比べて低くなっていることが確かめられる。 一方、この海域では、北半球夏季には大規模なモンスーンの風系に対応して、 強い南西風が吹く。TRITONブイやArgoフロートによる観測の結果から、 この強い海上風に伴う鉛直混合によって冷たい亜表層水が上昇して、 SSTが低下していることが示唆される。 次に、Argoフロートの観測データを用いて、 この低SST域の周辺における海洋表層の季節内スケールでの変動を解析した。 その結果、大気場における北進する季節内変動に伴うじょう乱が通過した際に、 1℃以上SSTが低下する事例が検出された。 大気のじょう乱に対してSSTがこのように鋭敏に応答するのは、 海洋混合層が浅いことによっている。 水温、塩分の鉛直構造の変化を解析することにより、 このときのSSTの低下は、海面における非断熱冷却というよりは、 強い海上風に伴う鉛直混合や、 低気圧性の風応力によるエクマン湧昇によるものであることが分かった。 このSSTの低下は、 じょう乱通過時および通過後に大気を冷却する効果を持っていると考えられる。 最後に、おもに衛星観測データを用いて、低SST域の年々変動を解析した。 低SST域は、混合層が浅いので、年々変動の振幅も大きい。 低SST域が特に顕著に現れる年には南西風が強く、大気の対流活動は、 太平洋側で活発、インド洋側で不活発になっている。 大気の偏差パターンは、近中立モードとしての性質を持っているようである。 また、東部インド洋におけるSST偏差を伴っていて、 部分的にはインド洋ダイポールと関係しているかもしれない。 |